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 「印泥箱・華をとどめる」


           


           



■ 着想
 大変お世話になった書家の先生が大学を退官されることになった。何かお礼の気持ちをと考えて印泥を入れる箱を作った。本来の用途は日本画や書家の落款押印に使われる盒であり、箱の材料によっては大切な印が欠けてしまうことがままあるようである。硬くてしかも木の素材で挑戦。文房でも違い棚でもしかるべきところにおいて大切なものを入れておいてもよいと思って濃密で、華麗で、引き締まった形状に感性を巡らせた。

■ 胎
 どうしてもある程度の重量が必要であったので、黒檀を使った。平たい正方形で作り、被せ蓋、立ち上がりをしっかりと台に埋め込んで、強く作りました。使用した黒檀は伐採・製材からどう考えても50年以上経っているのに内部にはいまだに応力が埋め込まれていた。なかなか手ごわい材料であった。

■ 技法
 小さい箱であるが、しっかりとまとまった作品を目指したので、フィボナッチ数列状に夜光貝の螺鈿を施した。色合いを考えながら、同時に金と青金の紛、平目紛を豪快に蒔き付けた。内部は金蒔き詰めの梨地漆で仕上げ、明るくして全体にダイナミックな感じと繊細さを融合させた。

■ サイズ
 15×15×9p

■ コメント
 意外と多くの時間を要した。箱の性質上豪華で、しかも落ち着きのある箱であるといういくつかのベクトルを一つにまとめることは難しかった。先生も朱肉で汚れることを嫌い、紙を敷いて高価な墨とか印自体をいれているようである。実際には何に使ってもよい、小さいけれど、たっぷりと重量感のある小箱となった。

■ 販売価格
 120万円